美しいエイベックス
スポンジに水を含ませて仕上げる日焼け色のファンデーションはもちろん、見事に焼いた小麦色の肢体を披露したMのポスターとCMは大きな話題を呼び、女性たちは我も我もと肌を焼くことに夢中になり、新しいタイプのファンデーションを買い求めた。
ちょうど、レジャーという言葉が普及し出した頃だ。
夏に海やプールに出かけ肌を焼くという行為は、豊かさの象徴のように日本中に広まっていく。
これは、化粧品会社の苦肉の策でもある。
日本の夏は蒸し暑く化粧には適さないとされていたため、それまで夏場には化粧品の売上げが激減していた。
夏場の需要を開拓するため知恵を絞って生み出しだのが、日焼けした肌にぴったりな化粧品であった。
夏の肌は小麦色にという化粧品会社の広告路線は、70年代に入っても続いた。
当時のこの路線の大ヒット作が、「キープエイズ」だ。
K化粧品のこの広告をご記憶の方も多いだろう。
胸を千で覆い隠して走る真っ黒に焼けたNのポスターは盗難騒ぎが相次ぎ、彼女を世に送り出すきっかけとなった。
79年には、「Nの夏」と題したSのKが人気を集める。
キャペーンガールは挑発的な目が印象的だった小野みゆき。
スポンジに水を含ませても含ませなくてもどちらでも使える両用ファンデーションは当時としては画期的な製品であり、多くの女性が群がった。
キャンペーンが人気を集めたとはいっても、女性の美白志向がすたれたわけではない。
夏には焼いて、秋口からまた元の白い肌に戻すというサイクルだったのだ。
小麦色の肌は季節限定のものであり、化粧品会社は焼いた肌を白くするためのパックやクリームを市場に送り込んだ。
要するにマッチポンプである。
しかし、夏場の需要を掘り起こすことに成功した化粧品会社の「夏の小麦色」戦略は、80年代半ばになると、急速に効力を失ってしまう。
80年代初めに南極でオゾンホールが発見されてからというもの、紫外線のマイナス面が大きくクローズアップされるようになったからだ。
シミやソバカス、皮膚がんの原因になるだけでなく、肌にじわじわとダメ−ジを与え、時にはたるみやしわなど老化の原因にもなる紫外線は、女性にとっては忌避すべき対象以外の何物でもない。
女性たちは一転して夏も白い肌を志向し始め、化粧品会社も1年を通して日焼けを防ぐ化粧品に力を入れる。
70年代、あっけらかんと夏の強い日差しの下で日焼けを楽しんでいた頃とは180度の転換だ。
uv(紫外線)という言葉を女性たちが日常的に口にするようになったのもこの頃だ。
uvには、波長の長さによってuv−Aとuv−Bがあり、uv−Aは皮膚の真皮まで届いて細胞や脂肪組織を酸化すること、uv−Bは肌の表皮にダメージを与えてシミの素になるメラニン色素を作り出すことは、いまや女性の常識だ。
女性たちは、紫外線を防ごうと、SPF(sunprotectonfactor =紫外線防止指数)の高い日焼け止めの購入に走り始める。
90年代に入ると、通年型の美白化粧品の開発はさらに進んだ。
その成果の1つが、90年にSから発売されたシミーソバカスを防ぐ美容液ホワイテスエッセンスだ。
独自に開発した美白成分アルブチンの効果に加えて、このネーミングも巧かった。
美白志向のツボを押えた商品名が、大ヒットに貢献したことは間違いない。
以後、ホワイト、ホワイトニング、ホワイテイ、ブライト、ルーセント(透明な)など衣料用洗剤のようなネーミングが氾濫することとなる。
一方でUVへの関心が高いのをいいことに、実際は効果がないUV表示の化粧品が発売されていたこともある。
国民生活センターが96年に実施した薬用UV化粧品の効能効果に関するテスト結果で、ホワイトやホワイトニングといった名称で「UVケア」をうたっている化粧品の多くに紫外線防止効果がほとんどなく、紫外線防止成分や美白成分も含まれていないことが判明したのだ。
テストの対象となったのは、「紫外線防止剤配合」あるいは「日焼けによるシミーソバカスを防ぐ」と表示された化粧水9点と乳液4点。
メーカーはSKやK、K、Kなど大手6社。
これらの商品の表示を見た消費者の誰もが認こう思ったに違いない。
紫外線を防いで、シミやソバカスができないようにする化粧品だ。
ところが実際、日焼けやシミーソバカスの原因となるUV−Bの防止効果があったのは1点のみ。
残りは何も塗らないのとほぼ同じで、紫外線防止効果は期待できなかった。
肌の弾力を保つコラーゲンや子フスチンをこわし、しわやたるみの原因となるUV−Aの透過率を調べると、防止効果「あり」は1点、「ややある」が2点、残りの10点は「なし」だった。
美白に有効なビタミンCは7点に表示されていたが、配合量は極めて少なく、1点が約O・5%、他はO・02%以下に過ぎず、8点に表示されていたプラセンタエキス(美白成分)を除けば含まれていなかった。
ちなみにプラセンタエキスは95%以上が水分だという。
つまり製品中のエキスの量はO・01%以下、水同然だ。
メーカーは、「UVケアとは、日焼け後のケアのことであり、紫外線を防止するという意味ではない」と反論したが、これは読弁というものだろう。
UVという言葉への女性の食いつきのよさが、メーカーに勇み足を踏ませたのだ。
詐欺まがいのUV化粧品騒動はあったものの、消費者の美白志向はいっこうに衰えを見せなかった。
というより、エスカレートする一方だ。
今あるシミを薄くするだけでなく、シミの予備軍も退治しましょうと化粧品会社は煽り、消費者もそれにうまく乗せられて、シミ撲滅大作戦が展開されている。
美白成分アルブチンでヒットを飛ばしたSに遅れをとらせまいと、各社とも美白成分の開発に励み、次々と美白に効果的な成分が生み出されていった。
代表的な美白成分とメーカーとの組み合わせを紹介すると、アルブチンがS、エラグ酸が、フイオン、ルシノールがポラ化成工業、カモミラETがKといったところだ。
コウジ酸も有力な美白成分の1つだったが、2003年3月から使用不可となってしまった。
発がんの可能性があるとして厚生労働省が、追加試験で安全性が明らかになるまではコウジ酸を配合した化粧品の製造・輸入を禁じたためだ。
この通達を受けて、コウジ酸配合の商品を抱えていたKやA、外資系のEグループ、ロレAグループなどは商品の回収に追い込まれた。
コウジ酸は味噌や醤油などを作る麹から発見され、メラニン色素の形成を抑制する作用があることで知られる。
天然由来の成分とあって自然志向の強い消費者の支持を集めていたが、通達で状況は一変。
善玉から悪玉に転落した。
人気の美白成分だっただけに打撃を受けたメーカーは多かったが、中でも被害甚大だったのが、世界に先駆けてJウジ酸の効果を発見した三省製薬だ。
担当者は「今回の対策は、仕方がないものとして受け止めている。
従うしかない」と控えめに語った。
他の製品も作っているとはいえ、コウジ酸配合の美自用化粧品デルメッドは同社の看板商品。
通達後、他の美自成分に切り替えたが、影響は甚大だった。
しかし厚生労働省の通達とは、実は「甲状腺・肝臓に対しての発がん性が示唆され、遺伝毒性がある可能性は否定できないが、直ちに安全性に問題があるともいえない」という意味不明の内容だった。
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